ちょっと不思議な夜があった。
「こういう生活したことある?囲炉裏の生活って。今はほら、炭だけども。昔はさあ、俺のちっちゃいときは、わっつぁばって分かるかな?薪のおっきいの。それを一本、くべてくの。そうすっとねえ、4時間、火が消えないの。で、夜寝るときはちょっと灰をよせてさ、朝起きたらまた、その灰をこう広げる。ほんで、ちっちゃい違う薪をくれると、またぼおっと燃える。で、囲炉裏の上には、すっぺとか、みのとか、そういうのをね、全部ほしたん。要するに一晩で、それをみいんな乾かしちゃうんだよ。」
地元の方言でそう語るのは、生まれも育ちも松之山の“眞ちゃん”。ざっくばらんだけど、気さくで、あったかくて、どこか可愛らしい人。
「お、ほうら。うまそうだぞ。これはね、けんちん汁って言って、きのことか入れて。まあ、昔なんかさあ、豚肉とかそういうのなかったんだから。だからあの、越冬用って言ってね、自分で畑できゃべつ、ねぎ、白菜、ごぼう、人参、全部作るわけ。10月あたりに採れるのを、それをうちの倉庫とかにしまっておくの。ほいで、雪降っちゃうと、春までそれを食べったん。大根から全部ね。ほいで、冬越したわけよね。」
「ここはね、雪が深いもんで、普通もう、3メーター4メーター。そんで、われわれ子供ん頃はもう、雪が降れば、車通らないのよ、それで終わりなの、その年は。そんで、となり町からね、にしんとか、しゃけとか、ほっけとかさ、そういうのを持ってきたんだ。保存のきくものしかなかったからね。しょっぱいのばっかだったん。刺身なんかねえからね。そんな時代があったんだわ。」
眞ちゃんが語る言葉から、冬、大雪に覆われ、食べるのに苦労したであろうこの地で、先人たちが育くんだ知恵が垣間みえる。そして、自然と思いを馳せてしまう。昔の人は、“年が終わり”になって、この囲炉裏の火をどんな思いで見つめていたんだろう。誰と、何を話していたんだろう。
この地で生まれた、何十年も何百年も昔の人たちと、共に過ごしているかのような夜。
“地炉”は、松之山温泉街にある、古民家を移築した体験施設。ツアーでの様々な料理体験や、地元の奇祭“婿投げ・すみ塗り”でお婿さんをおもてなしする場としても使われている。